母は石川県金沢市の生まれである。毎夏、家族でぞろっと帰省する。私はもうすっかりいい大人だが、それでもぞろっとついていく。生まれてからずっとそうしてきたので、母が行かないと言うまでは一緒に行くだろう。いや、行かなくても一人で行くかもしれない。私を形成してきた要素に、金沢という街は間違いなく含まれているからだ。
ラーメンほど、日本人が口やかましく言及する食べ物はないかもしれない。しょうゆだ、とんこつだ、しおだ、札幌だ、長浜だ、和歌山だ(そういやまだ食ってないぞ、辻田くん)と、それこそ日本全国あちこちにいろんな味のラーメンがある。
どうも日本人は、殊に都会に住んでいる連中は、感性を並列化したがる傾向があるようで(まあその方が商品を売る側としては楽なのだが)、食べ物にもブームなどという訳のわからないものがある。ブームに乗って新しい味を知るのは多いに結構だが、自分の味覚というものをしっかり持った上での話なので、その辺はちゃんとしてもらいたいものだ。
長いので閑話休題(食べ物の話になると妙に毒っぽくなっていかん)。
8番らーめんを知ったのはもう記憶の遥か彼方だが、石川県を中心に北陸地方に展開しているチェーン店である。なぜ8番かというと、北陸に延びている国道8号線沿いに店を出したからだそうだ。
特長は、なんといっても麺の上に乗っている野菜である。キャベツ、タマネギ、もやしなどを炒めて、ともすると麺より多いくらいのボリュームでどかっと乗っている。チャンポンやタンメンの比ではない。シナチクも割とたっぷり入っている。それに、太麺である。細麺がラーメン業界の主流の中、8番はずっと太麺である。8番らーめんは、どちらかと言えば味わうより食べるラーメンである。8番ナルトは、具が減ってきたころにささっと食べよう。
私は、いつも塩バターを注文する。他のメニューも食べたいと思うのだが、何日も帰省しているわけではなく、せいぜい一、二度くらいしか食べられないので、どうも他を注文する気になれない。一年に一度しか食べないからうまいのか、白山山系の水がうまみを育むのか、ともかく、これだけ気に入ってしまうともう他のラーメンは食えない。唯一浮気したのは、天下一品くらいだ。
他のラーメンを食べるとき、8番らーめんは味の基準になるが、未だ超えるものは出てこない。それほど有名なラーメンではないので、うまいラーメンは他にもっとあるはずだが、たぶんこれからも出てこないだろう。それは、単純に味だけでは量れないうまみが、8番らーめんにはあるからなのだ。