田島貴男の後を継いで、三代目のヴォーカルとして野宮真貴が加入した。ハルメンズ、ポータブルロックと彼女を古くから知っている私は、驚きと困惑でいっぱいだった。それは、彼女が加入したピチカートが想像できないからであった。
一体どういうサウンドになるのだろうか。何より、私の好みの音になってくれるのだろうか。期待よりむしろ不安のほうが大きかったのは否めない。しかし、それは徒労に終わった。
野宮真貴というヴォーカルを、崖から落ちるくらいの勢いで前面に出し、小西・高浪のサウンドががっちりと固める。ピチカートファイヴは、今まで採らなかったフロントヘビーのスタイルでガンガン攻め始めた。野宮の持ち合わせていたファッションセンスと、小西の天才的サウンドプロデュースは、やがて「渋谷系」というムーブメントに発展する。
しかし、その頃から私は少し距離を置くようになった。もちろん、曲は聴き続けていたが、私はピチカートが渋谷系だなどと思わないし、そんなジャンル分けは音楽を作り出す者にとっては関係のないことだ。それは、ピチカートがビジネスという無限軌道に入ってしまったことを意味していた。
それでもやはり、新しい曲を聴くごとに、ピチカートのサウンドはがっちり私を捉えて離さない。これほどはまったアーティストは、今までなかった。それこそ、遺伝子レベルでそのサウンドがインプリンティングされているような感じさえあった。
終焉は、突然で呆気なかった。私が独り暮らしを終えて実家に帰ると同じくして、ピチカートファイヴは解散した。奇しくも、私が独り暮らしをしていた十年間とともに、野宮真貴のピチカートファイヴはあったのだ。
この頃から、私はあまり新しい音楽に手を出さなくなった。意識しているわけではないが、やはり失ったものは大きかったということだろう。次に私を狂わせてくれるほどの音に、果たして出会えるのだろうか。
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