一目惚れならぬ、一耳惚れというのをよくやる。例えば、カーラジオから流れてくる曲や、CDショップの適当な視聴機で聴いた曲、具島直子の場合は、テレビの天気予報だった。夕方帯の情報番組の天気予報で、どうしようもなく切ない、耳に残ってしまう曲が流れていた。それがアルバムのトップチューン「Melody」であった。
具島直子の曲は、時間と場合を選ぶ。午前中はだめだ。天気のいい日もだめだ。深夜もだめだ。夕暮れ時、今日という日が暮れていく黄昏時、できれば車の中でこれからちょっと訳ありのところへ出掛けていく、というのがベストだろう。
以前、友人と車で遠出したとき、さあこれから地元を離れるぞと高速に乗っていて、ふと山下達郎が流れた。今までそれほど気にも留めていなかった彼の音楽が、その時突然、私の心に入ってきたのだ。音楽は、ただ漫然と聴いているだけでなく、そのシチュエーションで思いがけない効果があるということを知った瞬間である。
具島直子のサウンドもそうだ。時間やシチュエーションを合わせたときに、彼女の歌は何百倍にもなって心に響いてくる。そういう聴く人に入り込むようなサウンドを、大事にしたいと思う。
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