いろいろケチのついた東京行だったが、最後の最後までそうだった。
急いで帰って風呂に行きたかったので、生まれて初めて自腹でタクシーに乗った。新幹線を降り、荷物を抱えてタクシー乗り場に向かった。
あまり順番待ちすることなく、タクシーはやってきた。大きいほうの鞄を車内に入れようとすると、運転手が迷惑そうな顔で制止してきて、後ろを指差した。トランクに詰めと言うのだ。
少しでも急ぎたかったのだが、私は指示に従った。確かに、その鞄は後ろのシートに置くには大きかったようだ。
車なら二十分くらいで着くだろう。このくらいの時間なら銭湯もまだ開いている。
繁華街近くに差し掛かり、信号で停まった。信号の代わり端、1台斜め前の左車線のRV車がいきなり右へUターンをし始めた。
信号の代わり端だったので、当然前の二台は接触、ガシャンという鈍い音が聞こえた。
私と運転手は、無茶しよんなー、と思わず声に出した。
もしちょっとでもアクセルを踏んでいたら、ちょっとでもブレーキが遅かったら、この車がぶつかっていたかもしれない。
「気をつけてくださいね、ほんまに」はあ、やっと帰ってきた。さあ風呂だ。