正直なところ、意外とよくもってるので驚いている。あれだけ完全に出オチの芸人も珍しい。だがプロフィールを調べてみると、今年のABCの審査員特別賞を獲っていた。もしかすると、もしかするかもしれない。
立ち位置下手から、元相撲取りだったというHIRO。上手、見た目はスキンヘッドの極悪人、喋れば超ソプラノ声のクロちゃん。中央、癖のありすぎるメンバーをまとめる大変さがしみじみ伝わる団長。やっぱり出オチ芸人である。
私は散々、芸人は舞台が本分と言ってきたが、彼らはテレビ向きの芸人だと言える。あまりにキャラクターが濃過ぎてイメージが固定され、舞台でネタを繰ってもそれほど広がらないだろう。あれだけ濃いと、ネタのマンネリはすぐに飽きられる。
舞台より自由に振る舞えるバラエティ番組のほうが安田大サーカスを活かせると思うが、いかんせん、それをやろうとなると、今度はメンバー個人の力量が問われる。
引き合いに出して申し訳ないが、ダチョウ倶楽部の上島が今一つ伸びないのも、彼のアドリブのなさが足を引っ張っている。テレビで活躍しようとすれば、シュアな芸を要求される舞台と違って、臨機応変な俊敏さが問われるのだ。
それには、場の空気を読む力や流れを見る力、他の芸人との絡み方など、舞台とは違ったスキルが必要となり、とても一筋縄ではいかないだろう。
安田大サーカスに可能性を引き出せる容量がどれだけあるかはわからないが、ここまで来れたのだからこれからも頑張ってほしい。
かの香織 「裸であいましょう」
守口にいたころ、FM大阪にせっせとリクエストを送っていた時期があった。毎日送るもんだから、ほぼ毎日紹介され、たまに曲もかけてもらえた。akikoの「crazy about you」をFM大阪で最初にかけさせたのは私のリクエストである。
その頃ハマっていたのがかの香織であった。
ショコラータのヴォーカルとしてデビュー、解散後ソロとして活動し、FM局で注目を浴びる。私もその一翼を担っている、ということにしておきたい。
なんといってもその魅力は声である。歌声もさることながら、話し声も非常に魅力的である。官能的とまではいかないが、やや鼻にかかった感じで、破裂音と摩擦音のアクセントがきれいに整っている。故に、CDでは邪魔者扱いされているリップノイズやブレスノイズを活かした生身のヴォーカルを聴くことができる。
アルバムの楽曲も、ヴォーカルを前面に出したものが多く、かの香織の魅力満載の一枚と言えるだろう。
年内に久々のアルバムが発売予定である。
かの香織 公式ウェブサイト http://www.caolina.net/
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THE PLAN9
既に関西ではコアな人気を博しているプラン9。コントだけかと思ったら、どうも漫才も本腰を入れてやっているようだ。かつて、電車道という4人漫才がいたが、5人は恐らく史上初めてであろう。
プラン9は、メンバー全員がコンビ解散を経験している。おーい!久馬(シェイクダウン)、鈴木つかさ(シンドバッド)、浅越ゴエ(デモしかし)、灘儀武(スミス夫人)、ヤナギブソン(君と僕)。夢を捨てきれない芸人達の吹きだまり、と言ったら失礼だろうか。
コントでは既に定評を得ているプラン9だが、5人漫才となるといろいろと問題点や課題も出てくる。先日、「松紳」でネタを披露したとき、紳介師匠が開口一番「スピード感がない」と言った。松本さんは「5人でやる必要性を問う」と言った。さすがはお笑い界のゼウスとアポロンである。
プラン9は漫才をするとき、ツッコミ1人、ボケ4人という体制になる。センターにツッコミがいて、両サイドに2人ずつ、それぞれのボケにツッコむのだが、漫才といっても所詮は会話である。複数が同時に喋れるわけもなく、どうしても3人あぶれてしまう。そこがスピード感の喪失につながっているのである。
紳介師匠は、それをレースのピット作業になぞらえた。ピット作業は、マシンに触れることのできるクルーが3人(恐らく鈴鹿8耐の場合だろう)までと限られている。ピットクルーは7、8人いるが、実際の作業は3人しかできない。が、まるで全員が一斉に作業しているように見えるという。
つまり、喋れるのは2人だけだが、それを全員が喋っているように見えるスピード感が欲しい、ということなのだろう。
しかし、ここで私はふと思った。もし舞台上で5人がそのようなスピードで漫才をすると、たぶん客はついてこれないのではないかと。
5人は舞台上で横一列に並ぶ。すると客は、5人の動きに注意しなければならない。全員視界には入るだろうが、一人一人の動きを全て把握するのは無理だろう。そうすると、客の見ていないところでネタが進む可能性があり、これは非常に危険である。
ピット作業は、タイヤ交換を見ていて給油が見えなくても構わないが、漫才のネタはそうはいかない。右に気を取られている間に、左のフリが見えなくて真ん中のオチがわからなかった、では漫才として成立しない。
たぶん、メンバーもテンポの悪さは実感していると思うが、テンポを上げれば客にわかりにくくなる、客にわかるようにすればテンポが鈍る。そうまでして5人でやる必要があるかといえば、確かに疑問が残る。
現状では、ネタはよく練られていて非常に優れており、5人である必要性を感じさせるものとなっているが、絶対的な必要性があるかといえば、そうでもない。しかしそれはプラン9が5人だから5人漫才、という有無を言わさぬ存在価値を見いだせれば、それはそれで彼らの勝利である。
5人漫才という未知の領域に踏み込んだプラン9。やっぱりあかんわ、と得意のコントに逃げても私は寛容するが、できればこの未知の領域を制覇して、新たな金字塔を打ち立ててもらいたい。期待している。
サバンナ
最近全国ネットでネタを観る機会が増えてきた。私も好きな芸人の一つなので、この辺で触れておきたい。
八木真澄と高橋茂雄の二人は、立命館大学空手部の先輩後輩にあたる。吉本の若手では珍しく、NSC出身ではない。94年に結成し、97年にはABCの優秀新人賞を獲得、2丁目劇場終期に頭角を現した。
ツッコミの八木は、顔がトミーズ雅に非常によく似ていて、なかやまきんに君に負けず劣らず筋肉バカである。かなりの天然キャラで、その逸話は枚挙にいとまがない。「おぇ!」というツッコミをよくする。
ボケの高橋は、作家肌でシュールなボケが多い。ネタはきっちり組まれていて、シュールな中にも整然とした印象さえある。八木より後輩だが、今は立場的にも同等だろう。
芸人受けする芸人でもあり、非常に仲間が多い。NSCではないのだが、同時期に2丁目などで活躍していた芸人達とも交流が深い。
ネタはコント形式がほとんどで、立ち漫才はほとんどない。高橋のボケに八木がツッコむというのは当たり前だが、高橋のボケがとんでもない方向から飛んでくる。
言葉のボケというのは、正当なものに対して奇異なものをかぶせるわけで、普通は観る方もある程度ボケを予測できるものである。しかし高橋のボケは、予測もつかないあさっての方向からびゅんと飛んでくるわけで、こういうボケは的確なツッコミをしないとボケを活かせないまま終わってしまう。高橋を侍ジャイアンツの番場蛮と例えるなら、八木はキャッチャーの八幡だと言えるだろう。
東京で天下を獲れるような器はないかもしれないが、大阪芸人の底の厚さを存分に見せつけてもらいたいものだ。
従業員食堂
大阪城のほとりにある某巨大ホテルでアルバイトを始めた頃、先輩に連れられて従業員食堂で食事をすることになった。私がカウンターでまごまごしていると、中にいた若いコックが”はよせんかいボケ”と言わんばかりの目付きでこちらを一瞥し、乱暴におかずの乗った皿を私の目の前に置いた。以来私は、二度とこの従業員食堂で食事はすまいと誓った。
別にコックにビビったわけではない。彼らの態度は、食に携わる者にとって決して褒められたものではない。私は食事をしに来たのであって、餌を食べに来たのではないのだ。
職場が神戸に移っても、私は従業員食堂で食事をすることはなかったが、ある日、どうしても時間がなくて仕方なく従業員食堂へ行った。
「いらっしゃい。おにいちゃん何しよ?」
二十人も入れば満員のその食堂には、高下駄を履いてそうな板前風のコックと、おばちゃんが二人いた。
「ごはんもうちょっと入れとこか」
「梅干おまけしとくわな」
食とは、ただ栄養を摂取したり、おいしいものを食べるだけのものではない。そこには、必ず人と人とのコミュニケーションが存在する。料理を作る人、材料を運ぶ人、野菜を育てる人、魚を捕る人。そして、そこには感謝の気持ちがなくてはならない。
「いただきます」「ありがとう」「ごちそうさま」
その日から、できるだけ従業員食堂で食事をとることにしている。家で食べられないものも食べられるし、おばちゃんとのちょっとした会話で疲れた心も和む。
「ボクもこっちにしとこか」
来年年男なんだが、まあいいかと思いつつ、その日はミートローフを初めて食べた。ごちそうさま。
イッセー尾形のとまらない生活2004IN京都
2年ぶりの京都公演である。前回、私は初めて生の舞台を観させていただいた。長い間憧れていたイッセー尾形の舞台である。今回で都合三回目の鑑賞となるが、なんと最前列!たっぷりと楽しませてもらった。
演題は勝手に付けさせていただく。
「単身赴任」単身赴任が決まった中間管理職サラリーマン。独りの生活をあれこれ思い描く。
初期の頃の作品。ビデオで何度観たことか。時事ネタが各部に入り、オチは完全に変わっていた。
「真夜中の引越屋」とあるマンションに一人で派遣された引越屋の若者。謎めいた引越の荷物とは。そしてその引越の理由とは。
いろんな作品を観てきたが、死人が出てきたネタは初めてである。ちょっとびっくりした。イッセーさんにしてはダークでシュールな作品。
「夫婦の秘密」リゾート地へのパック旅行。ホテルのベランダで、若い夫婦が互いの秘密に迫る。
前のネタに続いてバカキャラもの。ネタの展開が楽しめた。設定が少し強引かも。
「サラリーマン親子」新社会人となった息子と飲む父親。しかし、息子は仕事を辞め、スペインへ行くと言い出す。父親と同じ人生を歩みたくないという息子に父は・・・。
お得意の初老サラリーマンネタ。この年代のサラリーマンの悲哀は、イッセー尾形の真骨頂であろう。
「最期のスーツ」寂れた仕立て屋に久しぶりの客が。棺桶に入るときに着るスーツを作ってくれという客に店の主人は張り切るが・・・。
プロットが巧みなネタ。静かな演技もさすがである。やはり最前列は所作や表情が細かいところまで観られるのでいい。
「クラシックの夕べ」幼稚園の卒園式の余興に呼ばれた妙齢の弦楽四重奏楽団。他のメンバーがまだ来ないので、一人で幼稚園生相手についつい・・・。
トリの歌ネタ。どうも新作らしい。そういえば本日初の女装。チェロでいろんな効果音を出して話を進めるが、実に器用な人である。”おーまえーはーあーほーか”があると関西では3倍受けるだろう。
京都公演後、すぐにロシアのほうへ旅立たれるとか。テロが続いているのでちょっと心配であるが、こればかりは気をつけてもどうにもならない。無事帰国されることを祈り、また来年、京都か大阪で舞台を拝見したい。
Sept.3,2004 京都府立文化芸術会館
THE PRIMITIVES 「Lovely」
ちらっとMTVか何かでビデオを観て、最後に出るアーティスト名のテロップを書きとめてレコード屋へ探しに行ったのを覚えている。それほどプリミティヴズは衝撃的でもあった。
今で言うGARBAGEとかあの辺のサウンドに近いだろうか。GARBAGEよりはポップでパンチもそれほど効いてないが、ちょっとパンキッシュな3分ポップというところか。
トップチューンがその必死でメモした「Crash」。サウンドは実にシンプルだが、トレーシーの悩ましいヴォーカルが厚みを加えている。
比較的世間の受けもよかったようで、都合3枚のアルバムをリリースしている。私も何をトチ狂ったのか、「Lazy 86-88」というデビュー以前の音源を集めたアルバムも買ったりなんかしている。何十年か経って、プリミティヴズが再評価されたりなんかすれば、プレミアになるだろうか。
The Primitives 公式ウェブサイト http://www.crashsite.org/
8443-2-R BMG 1988