従業員食堂

大阪城のほとりにある某巨大ホテルでアルバイトを始めた頃、先輩に連れられて従業員食堂で食事をすることになった。私がカウンターでまごまごしていると、中にいた若いコックが”はよせんかいボケ”と言わんばかりの目付きでこちらを一瞥し、乱暴におかずの乗った皿を私の目の前に置いた。以来私は、二度とこの従業員食堂で食事はすまいと誓った。
別にコックにビビったわけではない。彼らの態度は、食に携わる者にとって決して褒められたものではない。私は食事をしに来たのであって、餌を食べに来たのではないのだ。
職場が神戸に移っても、私は従業員食堂で食事をすることはなかったが、ある日、どうしても時間がなくて仕方なく従業員食堂へ行った。
「いらっしゃい。おにいちゃん何しよ?」
二十人も入れば満員のその食堂には、高下駄を履いてそうな板前風のコックと、おばちゃんが二人いた。
「ごはんもうちょっと入れとこか」
「梅干おまけしとくわな」
食とは、ただ栄養を摂取したり、おいしいものを食べるだけのものではない。そこには、必ず人と人とのコミュニケーションが存在する。料理を作る人、材料を運ぶ人、野菜を育てる人、魚を捕る人。そして、そこには感謝の気持ちがなくてはならない。
「いただきます」「ありがとう」「ごちそうさま」
その日から、できるだけ従業員食堂で食事をとることにしている。家で食べられないものも食べられるし、おばちゃんとのちょっとした会話で疲れた心も和む。
「ボクもこっちにしとこか」
来年年男なんだが、まあいいかと思いつつ、その日はミートローフを初めて食べた。ごちそうさま。

みかつう

ツイッターは@crescentwroksだよん

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