渡辺満里奈 「a piece of cake!」

アイドルポップの隠れた秀作である。本作は1990年に発売されたが、今なお色褪せることのないサウンドを我々に提供してくれる。
ともすれば明るい、ピーキーな音作りになりがちなアイドルポップだが、このアルバムはそれを極力抑え、落ち着いた音色やミディアムテンポの曲を中心に収録されている。これはひとえに、プロデューサーである上田知華の手腕に因るところが大きい。
スタジオミュージシャンは窪田晴男(ビブラトーンズ、パール兄弟)、今剛、渡辺等(Shi-Shonen)、平ヶ倉良枝、沖山優司(ジューシィフルーツ)、中原信雄(ハルメンズ、ヤプーズ)、菅野よう子(てつ100%)など、80年代のJ-POPを支えた蒼々たるメンバー。
バックヴォーカルには奥田民生が一曲だけ参加し、個人的に仲のよかったフリッパーズギターも2曲提供(クレジットではDOUBLE K.O.Corporation)していて、がらりとサウンドが変わるが逆にいいアクセントになっている。
アイドル冬の時代と言われた90年代、かつておニャン子クラブでアイドルの絶頂を極めた渡辺満里奈は、次第にアーティスト色を濃くしていくが、やがて訪れるバンドブーム、インディーズブームに阻まれ、歌手活動を縮小していく。
ESCB1082 EPIC/SONY 19900721

akiko 「crazy about you」

実に衝撃的な出会いだった。当時、巷では外資系のCDショップが台頭し始め、音に飢えた若者を虜にしていた。私も例外ではなく、CDショップに立ち寄っては手当り次第に試聴機に耳を傾けていた。
かわいい女の子のジャケ写に惹かれてヘッドフォンを取った。屈託のないその笑顔を見つめながら、私はプレイボタンを押した。
なんて表現すればいいのだろうか。
耳から脳へ、そして身体中に電流が走ったような、私の中で、カチッと音を立てて、akikoというピースがはまった。アルバム全曲、私はその場で聴き通した。もちろん、購入したのは言うまでもない。
日本人でありながら全編英語詞というのは、まだ珍しい時代だった。だが、英語だろうと日本語だろうと、彼女の歌なら、声ならなんでもいい。そのリズムとメロディーに浸れるなら、なんでもいい。私が、初めて心底その音に惚れたのは、akikoだった。
デビュー以降、アルバムが発売されるにつれて、akikoはR&B性をより強く出し始めた。だがそれは逆に、私の好みの音からは外れていく結果となった。
1997年、4枚目のフルアルバム「KISS OF LIFE」のリリースを最後に、彼女は音楽界から姿を消した。小室ファミリー、ビーイング系アーティストが席巻していた時代、R&Bは早過ぎたのだ。
だが翌年、R&Bのキュートな怪物、あの宇多田ヒカルがデビューして、日本のR&Bは市民権を得ることになるが、そこにakikoの布石があったことを、私は信じて止まない。
TFCC-88060 TOY’S FACTORY 19950701