その日みかつうに何があったのか

日本橋で買い物を済ませ、開演まで時間があったので難波から御堂筋を北上した。
とことこ歩いて阪神高速の高架が見えるころ、腹にたまってきたガスを抜こうと、人通りの切れた頃を見計らってすかしてみた。
それは、おならだけが出るはずだった。
違和感を感じてすぐに力を入れたが、これはたぶん無事では済んでないだろう。どこかでトイレに入って確認する必要がある。
船場センタービルの細い通りを抜けて、トイレに入った。
幸い大事には至らなかったが、これから芝居を観に行くというのに、不安要素を抱えては集中できない。
梅田でいつものオムレツを食べた後、軽い便意を感じたので駅前第1ビルのトイレに入った。出るものは出し切っておきたいというのもあって、和式に入った。
いつも和式に入るときは、ポケットの中のものが邪魔になるので出しておく。特に財布をいつも後ろのポケットに入れているので、そのまま屈むと腿が圧迫されるのだ。
財布を出すときは、いつもは扉に立てかけておく。自分の進路に置いておくと、絶対に忘れないのだ。
だが、その日は、目の前の予備トイレットペーパーケースの上に置いた。目の前にあるので忘れないと思いがちだが、立ち上がってしまうと途端に視界から消えるので、危ない。
案の定だった。
トイレを済ませて買うものがあったので商品を取って財布に手をやろうとして、ポケットがぺらぺらなのに気づいた。
商品を棚に戻して急いで先刻のトイレに戻る。財布の中には金もそうだが、チケットも入っているのだ。
トイレを出てから十分くらいだろうか、戻って和式の個室を見てみると、そこに財布はあった。
よかった、と鏡に向かって一人呟くと、チケットを確認した。
チケットはあったが、チケットしかなかった。チケットを確認するために、退けなければならない千円札が、全てなくなっていたのだ。
「やられた・・・」
いつものセオリーを踏襲せずに、財布を置き忘れた私の不注意には違いないが、わずか十分の間に忘れられた財布から現金だけ抜いていくという、大阪の恐ろしさを改めて痛感した。
現金だけ抜いていくというのは、かなり慣れている。そういう場に数多く遭遇している人間の所作だ。
このあたりはホームレスも多い。確か、障害者用トイレに掃除のおばちゃんもいた。
被害額が少なかったのと、何より財布を忘れたのは自分の不注意なので、私はすごすごと会場へ向かった。
友人にこのことを話すと、「悪いことがあった分、そのうちええこともある」と励ましてくれたが、それなら、宝くじで3億円が二回くらい当たらないと割に合わない計算になる。
まったく、盗んだ犯人より、大阪の恐ろしさより、自分の不甲斐なさに未だへこんでいるのは確かだ。

みかつう

ツイッターは@crescentwroksだよん

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