ひとりでできるもん

初めてひとりで映画を観に行ったのは、小学校5年生だった。
一緒に行く予定をしていた友達がどうしても行けなくなって、ひとりで映画館へ行った。
その映画館はもう何度も行っていたので別に困るようなことはなかった。
それ以来、映画はひとりで行くようにしている。
今の若者は、果たしてひとりで何かできるのだろうか。
とかく人とのつながりを求める昨今、人は所詮ひとりである。
集団心理は、ときに暴走し、ときに人の命を奪うこともある。
それが本意でないにしても、起きてしまったことは取り返しがつかない。
人は自分が無力であると思うからこそ、他人の威を借りて自分を誇示しようとする。
しかしそれをいつまでも続けていると、自分が無力のまま歳をとってしまう。
宝塚の奥のほうに、廃線跡がある。
人気のハイキングコースだが、トンネルが多い。
もちろん明かりは一つもなく、懐中電灯携行必須である。
入口も出口も見えなくなったところで、懐中電灯を消してみた。
目は確かに開いているのに、何も見えない。かざした手すら見えない。
私は初めて、そのときにひとりでいる恐怖というのを覚えた。
今の若者に、その闇をひとりで打ち破る力はあるのだろうか。
ひとりで映画館に行く力はあるのだろうか。
ひとりで喫茶店に入る力はあるのだろうか。
今からでも遅くない。ひとりで何かを成し遂げる力をつけていってほしい。
そうすると改めて、他人の尊さがわかると思うのだ。
自分ひとりでは微力だから、他人の力が必要なのだと。