帰りの特急にて

いつものように居眠りを決めていると、隣に女性が座ったようで、いい匂いがしてきた。
男性の中には香水が苦手の諸氏もおられるだろうが、私はむしろ好きなほうで、キャバ嬢のプワゾンなんかにも耐性がある。
何より、美というものは五感に訴えて然りなのだ。
で、しばし夢の狭間を行き来していると時間の経つのもあっという間で、終着駅のアナウンスが流れた。
私は伸びをしながら身じろいで、なんとなく隣の様子を窺ったが、そのおねえさんは眠っていて起きそうにない。
とうとう電車が止まっても起きないので、私はそっと肩を叩いて声を掛けた。
寝過ごして他人に起こされた恥ずかしさのリアクションを予想していたら、どこか起こされるのを待っていたように、別段慌てることもなくおねえさんはすっと立ち上がった。
そのリアクションをやや訝しげながら私も続いて立ち上がると、なんとそのおねえさんは扉口に立って、私が来るのを待っているではないか。
そして軽く会釈して、一歩後ろに下がって、私を先にと促した。ああ、なんという奥ゆかしさ。
とても今まで夢の中にいた人とは思えない行動だ。きっと普段からそういう気遣いのできる人なのだろう。
私が仕事で疲れ切ってなかったら、きっとなんとかしたに違いない。
ただ、顔ははっきり見てないのよねえ。

みかつう

ツイッターは@crescentwroksだよん

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