私はいつもタオルを持ち歩いている。家にいるときは一日中首からぶら下げ、それで汗を拭き、手を拭き、最後にそのまま風呂で使う。
外出するときも仕事に行くときもカバンに入れたりして常に持ち歩いている。
それが今日、仕事先でなくなっていることに気付いた。
最後に使ったのを憶えているのは、阪急電車の特急車内、乗り込んですぐ汗を拭くために使った。
カバンにしまって、そのカバンは座った足の内側に置いてある。私はうつらうつらと居眠りをしている。
そして電車を降り、仕事場へ行って、タオルがないことに気付いたのだ。
まず考えられる可能性は、置き引きだ。
カバンのチャックは常に開いているので、物色しようとした犯人が、邪魔なタオルをまず取り出して、更に中を探そうとして叶わずにタオルだけ持っていったのか。
しかし場所はクロスシートの特急車内。時間は昼前。車内に空席はなく、立っている人もいたように記憶している。そんな中で、私の足の内側にあるカバンを物色できるだろうか。
それには身を屈めねばならず、たぶん不自然な格好に見えるだろう。それに、ごそごそしていると、たぶん私が気付くはずだ。隣席の客が体重移動をすると、シート越しにそれが伝わる。
私は隣に人が座ることを不快に思うほうなので(女性は歓迎)、身じろぎすればうっとうしくて気付くはずだ。
隣に座っていた男性は、私と同じようなスーツのスラックスに、白っぽいシャツ。いやに手を真っ直ぐ伸ばして文庫本を読んでいたのを憶えている。背はたぶん私より大きかった。
その男性は、桂で乗り込み、梅田で降りた。もし彼が犯人なら、最後まで付き合うだろうか。事を起こした段階で下車するだろう。
とはいえ、置き引きを完全に否定できない点が一つある。カバンのファスナーだ。
これがいつも仕事に持っていくカバンだ。このファスナーは一つではなく、左右(前後)から開けられるように二つ付いている。
私はいつも、このカバンを右が前になるように(ストラップが付いている方が後ろ)持っている。
そして、ファスナーは写真で言うと左から右(後ろから前)にしか締めない。
そのファスナーが、タオルがなくなったことに気付いたとき、右から左に少し締まっていたのだ。
これは、私が絶対にしないことなのだ。ということは、私以外の第三者がファスナーを締めたことを意味している。
しかしこれも完全な説ではなく、もしかすると出かけに姪っ子がイタズラして締めた可能性も否定できないのだ。
そしてもう一つ考えられる可能性は、汗を拭くために車内で使ったときに、カバンに入れたつもりが下に落ちてしまっていたということだ。
でもこれは普段の動作の一つであり、確かにカバンに戻した感覚もある。
シートの下には空間があり、もし仮に落ちたとしたら、奥へ入り込んで下を見ただけでは見つからない可能性もある。
結果として、置き引きの可能性も、置き忘れた可能性もどっちも否定も肯定もできない状況だ。
ただ、タオルがなくなったことは事実である。
幸いにも、カバンの中には金目のものは一切なく、盗られて困るものは弁当くらいだ。
これから、カバンは足元の車両の壁に沿って置くことにしよう。
みなさんも、どこに危険が潜んでいるかわからないので、自分の安全は自分で確保することに努めて欲しい。