と聞いて、みなさんはどんな食べ物を想像するだろうか。コロッケでできたうどん、コロッケの形をしたうどん、コロッケみたいなうどん。いやいや申し訳ない、ただコロッケが乗っているだけの普通のうどんである。
たぶん見たことも聞いたこともないだろう。日本全国どこの店にいってもそんなメニューにはお目にかからないと思う。私がそれを知ったのは、学生食堂であった。
当時、我が大阪芸術大学には、大きな二つの食堂、それぞれ第一、第二という食堂があった。第一食堂(以下一食)は、主に音楽系やデザイン系など、割とスカした学生が集まり、第二食堂(以下二食)には、我々映像系や写真系などオタク連中がたむろする、住み分けのできた食堂であった。
そのコロッケうどんは、一食のメニューであった。普段ずっと二食で食事をとっている私にとって、一食で食べることはおろか、中へ入ることさえ滅多になかった。しかも、学生の昼食にまずうどんは選ばない。がっつりした定食か、カレーや丼ものがほとんどである。
しかしある日、何かでたまたま一食で打ち合わせをしたとき、小腹が空いたので何か食べることになった。食券の販売機に違和感のあるメニューがある。「コロッケうどん?」私は思わず声に出して呟いたほどだ。確か160円くらいだったと思う。腹の好き具合もぴったりだったので、食券を買ってカウンターのおばちゃんに渡した。
それはすぐにやってきた。何のことはない、コロッケが乗ったうどんである。席に着いて、しばらく眺めてからコロッケを箸で突いた。
揚げ立てだったのだろうか、コロッケは軽く音を立ててうどんつゆにしみていった。一口うどんをすすって、コロッケを少し割ってみた。衣と中の具が、うどんつゆの中に溶けていく。コロッケがだんだんつゆを吸ってふやけてくる。つゆを吸ったコロッケを一口食べた。
うまい。コロッケが溶けたうどんつゆも、絶妙な味具合である。うどんと揚げ物といえば、きつねうどんも似たようなものであるから、食べ合わせとして違和感はないと思う。こうして、私とコロッケうどんは出会った。
それからというもの、一食で食事するときは、腹具合にかかわらずコロッケうどんだった。一人暮らしをしていたときも、実家に戻った今でも機会があれば食べている。
みなさんもぜひ一度、お試しいただきたい。
カテゴリー: 食
王将 外環富田林店
大阪芸術大学は、大阪の南はずれにある。普通に生活していては、まず通らないような僻地にある。そこに大学がなければ、たぶん誰も行かないだろう。だが、そこで過ごした四年間は、たぶん人生で一番楽しかった時期ではないかと思う。まさに青春の日々であった。
寮生活は、それまでの生活にないものばかりであった。友人と夜通し遊ぶなど、中高生ではできないことだった(今は違うが)。家族中心の生活から、自分中心の生活に移った。はめを外すということはなかったが、もっと遊んでおけばよかったかなとも思う。
年間制作でつるんだ連中と、よく飯を食いに行ったのがタイトルの王将である。週に一度、年間制作の授業が終わって、男四人を一台の車に押し込んで(しかもトヨタのセラ!)、昼飯といえば王将だった。
大体決まって頼むのが、豚肉とキャベツのみそ炒めと鶏肉の香味揚げである。豚肉とキャベツのみそ炒めは、まあいわばホイコーロウであるが、甘めのみそダレが好みに合った。鶏肉の香味揚げは、確か梅肉のあん仕立てのソースがかかっていたような感じだった。酸味が効いてて癖になる味である。もちろん、一品ものはそれぞれ頼んだものをみんなでつつき合う。私はこれにチャーハンだったが、他の連中には天津飯が人気だった。
授業の話、映画の話、バイトの話、女の話。話は尽きなかった。食事した後は、ゲームセンターかバッティングセンターかボウリング場に行くというのがお決まりのコースだった。
毎週のように行くものだから、ある日いつも同じ女の子の店員が注文を取りに来るのに気づいた。まあまあかわいい程度の子だったが、注文票に「ようこ」と書いてあったのを見つけて、次から「ようこちゃんとこ行こうや」が王将へ行く隠語となった。ま、別にそれ以外大した話はない。今でも働いていたらびっくりするが。
8月1日、富田林では日本一の花火大会がある。私は一度だけ見たことがあるが、あれは花火ではない。火薬の量は小規模な紛争並みである。一度見れば、二十年は花火を見なくても済むだろう。それほどすごい花火大会である。付近一帯の道路を全て封鎖して行われるので、近鉄電車で。1km以上離れてご覧になることをお薦めする。
RED RIVERのオムライス
食には疎い。グルメではない。食えりゃいい。味覚というのも感覚の一つなので、人によって違いはあるはずである。にもかかわらず、あっちの店がうまい、こっちの店がうまいなどと、ガイドブックを手にぞろぞろと行きやがる。世の中、ロクな舌を持ってない人間が多過ぎる。斯くいう私はもっとロクではないが。
大阪駅前第二ビルB2、JR北新地駅東改札口を出てそのまままっすぐ駅ビルに入ってすぐ左に曲がり、パチンコ屋を右手に、チケットショップを左手に見ながら二筋通路を過ぎると、RED RIVERという店がある。
基本は、ビジネスマン御用達の喫茶店だが、夜はパブになるらしい。店に入って右手のカウンターで注文をするセルフサービス。番号札を持って席へ。私はいつも給水器に近いカウンターの席に座る。ほとんどの客がビジネスマンなので、二人掛けの席に一人で座って時間を潰している人が多い。この辺はちょっと改善して欲しい。
さて、お目当てのオムライスである。初めて食べたのは一年前の正月。バイトの契約が朝からあって、夜には芝居を観に行く予定があって、その日一日大阪で時間を潰さなければならなかった。しばらくは梅田界隈で時間を潰そうと、早めに昼を食べに入った店がそこだった。
注文すると、大体3分以内でやってくる。それ以上待ったことはない。ノーマルとLサイズがあるが、Lサイズは相当腹が減ってないといくら好きでもさすがにきつい。ノーマル450円、Lサイズ550円。ノーマルは、銀の皿に乗ってやってくる。福神漬と、甘めのケチャップ?ソースがかかっている。このソースもまたうまい。
ここのオムライス、なんといってもその魅力は卵である。ライスを包む卵をすすって食べるというのは他にはないだろう。半熟、もしかして火通ってないの?くらいの柔らかさである。しかも厚い。ライスには一切具はない。鶏ガラスープで炊き込んであるらしいが、べちゃつかず、ぱらぱら過ぎず、絶妙のバランスである。
以前、有名な北極星のオムライスを食べたとき、味の印象があまりにも悪かったので、外食の選択肢からオムライスは消えていたが、RED RIVERのオムライスは月に一度は必ず無理してでも食べに行っている。
土日に大阪へ行くことが多いので、日祝休業というのは痛い。しかも、オムライスはオーダーに時間制限があって、午前11時から午後6時半(だったと思う)までである。オーダーストップの時間を知らなくて、食べられずにがっかりしたことがあった。
そろそろ禁断症状の出る頃である。こういうときは、目一杯腹を減らしてLサイズを頼む。今、食べるのが楽しみな食べ物は、他にはない。