降り続いた雨がようやく止んで春の日差しが戻った日曜の午後、私は快速に乗って帰路に着いた。
戸口に立ってもたれていると、乗り込んできた男女が私の後ろに座って何やら言い合っているようだ。
「何その言い方」「会っていきなり何よそれ」
おいおい、背中で痴話喧嘩はやめてくれよ。
会話の内容から察するに、待ち合わせをしていた二人が、お互いをなかなか認識できずに、彼のサングラスや待っているときの姿勢を棚に上げて彼女が詰め寄っている。相当待っていたのか、彼女はかなりご立腹だ。
彼のほうも言い返すが、周りが気になるのか声の調子は弱い。
彼らは携帯を持っていないのだろうか。喧嘩の原因は、携帯以前の時代のそれである。ま、私も持っていないが。
程なく、二人を沈黙が包んだ。私は途中で降りたので、その後の彼らの様子は知らない。夫婦喧嘩は犬も食わないの例えどおり、今頃はきっとよろしくやっていることだろう(←古いか)。