父回復す

ようやく不穏状態も解消し、泊り込みの必要もなくなった。やれやれである。
私は別にいくら徹夜をしようが平気だが、母にはあまり無理をさせられない。それだけになんとか早くこの状況を解消したかった。
しかし、妹が出戻ってきて非常に助かった。もしいなければ、もっと厳しい状況になっていたかもしれない。
私は免許を持っていないので、車を運転できるだけでも助かるし、料理もかなりうまくなった。向こうで飼っていた犬も連れてきたので、母の遊び相手にちょうどいい。
いつまで別居を続けるのか、正式に離婚するのか、それは当人の問題なので私は口を出さないが、帰ってきてくれて助かったのは正直なところだ。
それにしても、一体父の高熱の原因はなんだったんだろう。
仕事と酒のことしか頭になく、病院嫌いというのは典型的だが、まあ恐らく、回復して退院したところで、それが変わることはないだろう。人は往々にしてそういうものだ。この私も。

父の看病五日目

どうも、不穏状態を抑える睡眠剤が効き過ぎて平時も完全に覚醒していない状態になってしまい、それがまた夜中の不穏状態を引き起こすという、堂々巡りに陥ってしまっていたようだ。
この日はその睡眠剤の投与をせずに対応したことで、父の目覚めは通常のものに戻った。
朝食は完食、薬もちゃんと飲んで、朝のワイドショーを見ながら政治の話なんかしたのは人生で初めてではないだろうか。
明日から仕事なので週末はおかんに泊まりを引き継ぐが、たぶん大丈夫だろう。
ああ、やっと寝られる。

父の看病三日目

三日目ともなるとだいぶ慣れてきた。いやいや、睡眠不足に慣れたくはないが、きっちり食事と、何よりゆっくりと風呂にも入れているのでなんとか大丈夫だ。うんこが出ないのが気がかりだが。
今日からテレビがついた。一応各ベッドに一つあるのだが、配線がされてなかった。
やはりテレビがあると時間の進み方が違う。暇つぶしにはちょうどいい。ただし有料だ。
ワンセグは、残念ながら北向きの部屋なので生駒アンテナの電波が届かないのだ。
父の不穏状態もかなり落ち着き、今は浅い睡眠がずっと続いて、終始寝ぼけているような状態だ。
それでも、「お父ちゃん」と呼ぶとすぐに返事をするので、受け答えはできている。
さて、父がよくなってくると、今度はこっちだ。いつまでもこんな看病生活なんかしてられない。睡眠時間3時間未満がもう三日も続いているのだ。
病室には仮眠用の寝台も置いてあるが、さすがに横になるともう起きないだろう。椅子に座ってうとうとするくらいが精一杯だ。
できれば今日で最後くらいにしてほしいものだが。

父の看病二日目

地獄を見た昨日とは打って変わって、今日の父は終日浅い眠りの中だった。
いろいろ検査をして、心療内科の診察も受けたようで、そのせいかいつもの感じを取り戻していた。
そうなると、今度はヒマである。昨日持って行って全く手すらつけなかった文庫本は置いてきてしまった。
携帯アプリのゲームで時折ヒマを潰しながら、それでも異変があればすぐにナースコールだ。
そんなに深刻なものではなく、痰が絡んで苦しそうなときは対処を頼んだり、寝返りで心電図モニターの端子が接触してデータがおかしくなったのを報告したり、すっかりバイト看護師のようだ。
かわいい看護婦さんを見つける余裕も出てきた。いやあ、大変な仕事だとつくづく思う。
で、また今日も行くのか。いい加減こっちも幻覚を見そうだ。

父の看病

高熱で入院した父が、ストレスで不穏状態というのに陥った。
痴呆にも似た症状で、幻覚や幻聴、その場に合わない意味不明な言動、加えて夜間に出歩いたり、点滴を引きちぎったり、私が病院に行くと、そこには拘束された父の姿があった。
24時間の監視が必要だということで、昨夜私は寝ずの付き添いをしてきた。
それは聞いていた以上に酷く、5秒たりとも父から目を離せない。
拘束具を解こうとし、起き上がろうとするのを必死で止める。何度ナースコールを押したことか。
結局私は12時間もの間、ずっと父の姿を見つめ続けていたことになる。もう一生分見ただろうか。
ただの高熱だったはずだが、とんでもないことになっている。
正直、父が回復するのかさえ疑問に思うほどだ。
全国で家族の介護をされている方、自分達で抱え込まず、協力してもらえるところは他人に任せよう。
これはきつい。きつすぎる。

おかあちゃんはえらい

独り暮らししていたときは、誰も家事をしてくれる者がいないのでやらざるをえなかった。
掃除、洗濯、炊事、嫌いではないが好きでもなかった。
おかんがちょっと検査入院しているので、今その家事を引き受けている。
独りの分をやるにはやぶさかではないのだが、身内とはいえ自分以外の人間がかかわるとまあじゃまくさいことじゃまくさいこと。
晩飯どうしようかなあと結局一日中考えていた。おかげで仕事に集中できなかった。
改めて、おかんのえらさがよくわかった。
世の亭主諸君、及びすねかじりの道楽息子どもよ、いっぺん家事やってみ。