従業員食堂

大阪城のほとりにある某巨大ホテルでアルバイトを始めた頃、先輩に連れられて従業員食堂で食事をすることになった。私がカウンターでまごまごしていると、中にいた若いコックが”はよせんかいボケ”と言わんばかりの目付きでこちらを一瞥し、乱暴におかずの乗った皿を私の目の前に置いた。以来私は、二度とこの従業員食堂で食事はすまいと誓った。
別にコックにビビったわけではない。彼らの態度は、食に携わる者にとって決して褒められたものではない。私は食事をしに来たのであって、餌を食べに来たのではないのだ。
職場が神戸に移っても、私は従業員食堂で食事をすることはなかったが、ある日、どうしても時間がなくて仕方なく従業員食堂へ行った。
「いらっしゃい。おにいちゃん何しよ?」
二十人も入れば満員のその食堂には、高下駄を履いてそうな板前風のコックと、おばちゃんが二人いた。
「ごはんもうちょっと入れとこか」
「梅干おまけしとくわな」
食とは、ただ栄養を摂取したり、おいしいものを食べるだけのものではない。そこには、必ず人と人とのコミュニケーションが存在する。料理を作る人、材料を運ぶ人、野菜を育てる人、魚を捕る人。そして、そこには感謝の気持ちがなくてはならない。
「いただきます」「ありがとう」「ごちそうさま」
その日から、できるだけ従業員食堂で食事をとることにしている。家で食べられないものも食べられるし、おばちゃんとのちょっとした会話で疲れた心も和む。
「ボクもこっちにしとこか」
来年年男なんだが、まあいいかと思いつつ、その日はミートローフを初めて食べた。ごちそうさま。

イッセー尾形のとまらない生活2004IN京都

2年ぶりの京都公演である。前回、私は初めて生の舞台を観させていただいた。長い間憧れていたイッセー尾形の舞台である。今回で都合三回目の鑑賞となるが、なんと最前列!たっぷりと楽しませてもらった。
演題は勝手に付けさせていただく。

「単身赴任」単身赴任が決まった中間管理職サラリーマン。独りの生活をあれこれ思い描く。
初期の頃の作品。ビデオで何度観たことか。時事ネタが各部に入り、オチは完全に変わっていた。

「真夜中の引越屋」とあるマンションに一人で派遣された引越屋の若者。謎めいた引越の荷物とは。そしてその引越の理由とは。
いろんな作品を観てきたが、死人が出てきたネタは初めてである。ちょっとびっくりした。イッセーさんにしてはダークでシュールな作品。

「夫婦の秘密」リゾート地へのパック旅行。ホテルのベランダで、若い夫婦が互いの秘密に迫る。
前のネタに続いてバカキャラもの。ネタの展開が楽しめた。設定が少し強引かも。

「サラリーマン親子」新社会人となった息子と飲む父親。しかし、息子は仕事を辞め、スペインへ行くと言い出す。父親と同じ人生を歩みたくないという息子に父は・・・。
お得意の初老サラリーマンネタ。この年代のサラリーマンの悲哀は、イッセー尾形の真骨頂であろう。

「最期のスーツ」寂れた仕立て屋に久しぶりの客が。棺桶に入るときに着るスーツを作ってくれという客に店の主人は張り切るが・・・。
プロットが巧みなネタ。静かな演技もさすがである。やはり最前列は所作や表情が細かいところまで観られるのでいい。

「クラシックの夕べ」幼稚園の卒園式の余興に呼ばれた妙齢の弦楽四重奏楽団。他のメンバーがまだ来ないので、一人で幼稚園生相手についつい・・・。
トリの歌ネタ。どうも新作らしい。そういえば本日初の女装。チェロでいろんな効果音を出して話を進めるが、実に器用な人である。”おーまえーはーあーほーか”があると関西では3倍受けるだろう。

京都公演後、すぐにロシアのほうへ旅立たれるとか。テロが続いているのでちょっと心配であるが、こればかりは気をつけてもどうにもならない。無事帰国されることを祈り、また来年、京都か大阪で舞台を拝見したい。
Sept.3,2004 京都府立文化芸術会館

THE PRIMITIVES 「Lovely」

ちらっとMTVか何かでビデオを観て、最後に出るアーティスト名のテロップを書きとめてレコード屋へ探しに行ったのを覚えている。それほどプリミティヴズは衝撃的でもあった。
今で言うGARBAGEとかあの辺のサウンドに近いだろうか。GARBAGEよりはポップでパンチもそれほど効いてないが、ちょっとパンキッシュな3分ポップというところか。
トップチューンがその必死でメモした「Crash」。サウンドは実にシンプルだが、トレーシーの悩ましいヴォーカルが厚みを加えている。
比較的世間の受けもよかったようで、都合3枚のアルバムをリリースしている。私も何をトチ狂ったのか、「Lazy 86-88」というデビュー以前の音源を集めたアルバムも買ったりなんかしている。何十年か経って、プリミティヴズが再評価されたりなんかすれば、プレミアになるだろうか。
The Primitives 公式ウェブサイト http://www.crashsite.org/

8443-2-R BMG 1988

南海キャンディーズ

先日の「第2回MBS新世代漫才アワード」では、惜しくも一回戦でプラン9の五人漫才に破れたが(プラン9恐るべし)、内容は決して悪くなかった。単純にあれはキャリアの差が出ただけであって、南海キャンディーズとしての形は完成に近づいており、このままいけばABCや上方漫才も充分射程圏内である。
南海キャンディーズは、足軽エンペラーの山里亮太(以下山ちゃん)と、西中サーキットの山崎静代(以下静ちゃん)が昨年結成した、今では珍しい男女漫才コンビである。
スローでラジカルな静ちゃんのボケは、相方ですら制御不能になるという不気味な一面を持つ。山ちゃんもイタリア人に傾倒しているせいで風貌が少しとんちんかんだが、甲高い大きな声ではっきりと突っ込むので、ネタにメリハリが出る。
二人とも見た目に特長があるので、当初は出オチを憂慮していたが、舞台を踏むに連れ知名度も上がり、その心配もなくなった。「MBS・・・」では、あの往年の名男女コンビ敏江玲児師匠を彷彿とさせる強烈などつきを見せてくれた。
探りながらでもいいから、もっと場数を踏んで大きくなってほしい。そして、男女漫才コンビの最高峰、鳳啓介・京唄子を超えるのだ。

FLIPPER'S GUITER 「THREE CHEERS FOR OUR SIDE」

Lolipop Sonicとしてロンドンで活動中、サロンミュージック(POP ACADEMYさん曰く、渋谷系の黒幕)に見いだされてFlipper's Guitarとしてデビューした。小山田圭吾と小沢健二、二人の天才が組んだ今や伝説的なバンドである。
ネオ・アコースティックがどうこうというより、何を置いてもシングルの「フレンズ・アゲイン」である。あの佐々木麻美子がゲストヴォーカルとして参加しているのだ。飛びつかないわけがない。しかし、よくよく聴いてみると、佐々木麻美子が参加するくらいだから、ピチカートファイヴと共通点が何かしらあるということであって、後に小山田圭吾がピチカートのアルバムをプロデュースしたりもしている。
ほとんどが英語詞というこのアルバムは、活動の拠点をロンドンに置いていた名残であろう。小山田のヴォーカルは細くて頼りなげだが、青臭い若さがにじみ出ていて、華奢に思えるサウンドはフェイクであることがわかる。
解散後、先に小山田がコーネリアスとしてソロデビュー、遅れて小沢健二もデビューして、女の子の黄色い声援を浴びた。解散直後は、小沢のステージングに不安の声もあったが、ヒットチャートを賑わせたのは小沢のほうであった。小山田はピチカートファイヴやカヒミ・カリィのプロデュース、自身のレーベル”トラットリア”を立ち上げるなどして、幅広い活動を繰り広げた。
二人の天才はその手腕を様々に発揮して、音楽界に新たな波を引き起こした。今後また何を仕掛けて来るのか、楽しみである。
小山田圭吾 公式ウェブサイト http://www.cornelius-sound.com/
小沢健二 公式ウェブサイト http://www.toshiba-emi.co.jp/ozawa/(休止中?)
H30R-10004 POLYSTAR 19890825

長井秀和は天狗の鼻

先日の「平成教育委員会2004夏休みスペシャル」にて。
自分の解答について説明している長井秀和。だらだらと引っ張った挙句、たけしさんに「大したオチもないんだったらやめといたほうがいいよ」とたしなめられる。
再び、解答について今度は簡潔に答えた長井秀和。するとたけしさんに「視聴者は君がいつあれを言うか待っている」と言われる始末。
自分がなぜこの番組に呼ばれたのか、自分のポジションを全く理解していない。
君の代わりなどいくらでもいるし、君より面白い芸人もいくらでもいる。せっかくのチャンスをふいにした長井秀和に、芸人としての未来はない。気をつけろ、斬り!(あーやってもた

GO WEST 「INDIAN SUMMER」

「What You Won't Do For Love」という曲をMTVで観て気に入った。しっとりと落ち着いた曲調の中にも熱いものがある、大人の音だなと思った。しばらくして、その曲がAORの大御所、ボビー・コールドウェルのカヴァーであることを知った。そりゃ大人だわ。
INDIAN SUMMERとは、日本でいう小春日和の意味で、秋や初冬に夏が戻ったかのように暑くなる日のことである。夏が過ぎてしばらくしたある日に、あの夏のような暑さがやってきて、あの夏の出来事を思い出す。アルバムもそんな感じのサウンドである。
サックスのソロがメロウに響く「Still In Love」、トリッキーなカッティングギターで始まるダンサブルな「That's What Love Can Do」、コールドウェルよりずっと大人のサウンド「What You Won't Do For Love」、よくよく聴けば槙原チックな「Forget That Girl」。
10年以上経った今でも、充分楽しめるアルバムである。
GO WEST 公式ウェブサイト http://gowest.homestead.com/
CDCHR1964 CHRYSALIS 1992