手持ちのCDで比較的新しい部類になる。最初に聴いたのは「シトラス」だったが、牧歌的というか、実にナチュラルでストレートに心に響くサウンドであった。アイコのヴォーカルも素直で気持ちのいい声である。
アルバムを通して聴くと、スウェディッシュポップの色がなんとなく感じられた。サウンドはシンプルだが深みがあり、アイコはルーシーのアイデンティティたりえる伸び伸びとしたいい声である。
「カタクリの花」のようなしっとりした曲から、「Smile Again」のような楽しい曲まで、ライヴを中心に力を付けてきたバンドだけあって、偏りのないサウンドメイクはなかなかである。
しかし、セカンドアルバム発売直前に、ギターの福村貴行が脱退、彼は事実上ルーシーの要であったため、バンド活動は以降収束していく。そして昨年11月、彼は持病が悪化し、亡くなってしまった。この記事を書くにあたって、初めて私はその訃報に接した。
今でも元気にルーシーは活動中であるが、そのことがなにより嬉しい。
advantage lucy 公式サイト http://www006.upp.so-net.ne.jp/advantageLucy/
TOCT-24128 EASTWORLD 19990512
タグ: レビュー
CLOUDBERRY JAM 「Blank Paycheck」
何かで録画した番組に、無性に気になる曲があった。人にも聴かせたりしたが、全然わからなかった。当時、カーディガンズを始めとするスウェディッシュポップが台頭していて、なんとなく曲調が似ていたので当たりをつけて探していたが、なかなか見つからなかった。
そんなある日、とても似ている曲調のアルバムを見つけた。忘れもしない、大阪阿倍野のHMVだった。探している曲はなかったが、かなり似ていたので、一枚前のアルバムを買ってみた。ビンゴ。
音は確かにチープかもしれないが、三分間の中に一杯詰まった良質のポップサウンドである。少しトーンが低いヴォーカルも無理に弾けることなく落ち着いて聴かせてくれる。
バンドは解散していたらしいが、今年また再結成し、つい先日日本でライヴもやったそうだ。少し音を聴いたが、なんとなく落ち着いたというか、丸くなったというか、いい意味で大人のサウンドになっている。興味のある方は公式サイトへ。
クラウドベリージャム 公式ウェブサイト http://www.cloudberryjam.se/
NONSCD14 NONS 1995
加藤いづみ 「星になった涙」
人間の出会いもそうだが、音との出会いもまさに一期一会である。逃せばもう永遠に出会うことはない。加藤いづみとの出会いは、ふいに目覚めた朝の情報番組である。いつもなら昼近くまで起きているのに、その日はなぜか目が覚めてしまい、テレビをつけた。そこで歌っていたのが加藤いづみだった。
切ないメロディーと彼女の声が気に入って、そのままCDを買いに行った。全曲通してミディアムかスロー、悪く言えば暗い、ダウナー系のサウンドだったが、加藤いづみのアイデンティティがしっかりと音の中にあった。それは、プロデューサー高橋研の手腕でもあった。
中村あゆみをスターダムに押し上げ、数々のサウンドプロデュースを行ってきた彼なくしては、加藤いづみも存在し得なかっただろう。一時期、サウンドがポップに傾いたアルバムがあったが、やはり加藤いづみはダウナー系がいい。ご本人はとても明るくかわいい女性であるので誤解のないように。
情報収集で公式サイトに久々に立ち寄ったが、大きな瞳と丸い頬にぐさっとやられた。たぶん同じ歳だったと思うが、昔と全然変わらず実にかわいい女性である。
加藤いづみ 公式ウェブサイト http://www.katoizumi.com/
PCCA-00374 SEE・SAW 19920619
MATT BIANCO 「SAMBA IN YOUR CASA」
日産のティアナという車があるのだが、そのコマーシャルソングに、このアルバムに収録されている「What a fool beleaves」が使われている。ドゥービーブラザーズのカヴァー曲なのだが、オリジナルよりしっとり聴かせてくれる。マットビアンコらしくないといえばそうだが、ノリノリな曲ばかりではないのも間口の広さを窺わせる。
このアルバムを買ったのは、トップチューンの「You're the rhythm」のビデオを観てから。まだヒップホップがミュージックシーンを席巻する前、ダンスミュージックと言えばユーロビートだった頃だ。
ラテン系のフレーヴァーを取り入れたサウンドは、今やマットビアンコというジャンルを作り上げてしまった。口にするのは気が引けるが、お洒落なソウルサウンドという触れ込みで、息の長い人気を誇っている。
日本にもよくツアーで来日するが、大阪ミナミのクラブに毎回お忍びでやってくるのは本当らしい。私はそんなキャラクターじゃないので、指をくわえて「へえ」と言うしかないが。
今、最新の情報をググったら、顎がはずれた。なんと、オリジナルメンバーが復活している。そう、あのバーシアもだ。詳しくはリンク先を見ていただきたい。あーびっくりした。
マットビアンコ 公式ウェブサイト http://www.emarcy.com/bianco/
WMC5-447 WEA 19911128
Basia 「Time and Tide」
ジャケ写買いというのをたまにやる。ジャケットの写真だけ見て、音も聴かずに買ってしまう。非常に危険ではあるが、当たったときは嬉しい。そんなにお金はないので、ジャケ写借りというのもやっていた。バーシアはまさに大当たりだった。
私の記憶が正しければ、クラブクアトロの柿落としは彼女のライヴであった。その後、彼女がマット・ビアンコの一員だったことを知った。マット・ビアンコがデビューした後、メンバーの一人と駆け落ちみたいに脱退したそうだ(実際にご結婚されているそうな)。
マット・ビアンコは後々触れるとして、バーシアである。彼女はポーランド生まれで、本名をバーシア・チェチェレフスカという。このアルバムが発売された当時、まだベルリンの壁は存在していた。ワルシャワ条約機構もあったはずだ。しかし、音楽に国境はないということは、周知の事実である。
ボサノヴァを中心としたラテンフレーヴァー溢れるリズムとメロディは、彼女の聡明なヴォーカルと相俟って、俗に「バーシア節」とも呼ばれている。デビューアルバムでそのスタンスは既に確立されていたのだから、実力は推して知るべしである。
尤も、既にマット・ビアンコでその才能は開花しており、彼女がソロデビューするのは必然だったのかもしれない。
新しい音源が途絶えて久しいが、ぜひまたあの「バーシア節」を聴きたいものだ。
25-8P-5131 EPIC/SONY 19870921
Candy Dulfer 「Sax a Go Go」
SONYMTVを観ていると、ムーディなサックスのインスト曲が流れた。こういうのもありかなと輸入版で買ってきて聴いてみると、そのムーディなのは1曲だけで、あとはこれでもかというファンキーな曲ばかりだった。まあこれもいいかと思って、以来よく聴くようになった。なかなか美人でグラマーなサックスプレイヤーである。もっとも、インストだからご本人のルックスも声も関係ないが。
キャンディ・ダルファーはオランダ国籍で、お父さんのハンス・ダルファーも有名なサックスプレイヤーである。最近のニュースによれば、父娘共演のアルバムも出したそうだ。最新のアルバムは去年発売されていて、ちょっとだけ聴いたがなかなかいい感じである。買えればいずれまたレビューはご紹介する。
分類上はジャズなので、CDショップの置き場もジャズなのだが、サウンドは実にファンキーそのもので堅苦しくない。兎角ジャズサウンドというのは聴く方もついつい構えがちになってしまうが、キャンディのサックスはそんな垣根や敷居を全く感じさせない。
日本にもよくツアーやプロモーションで来日する。私も一度はブルーノート辺りで彼女のサックスを聴きたいものだ(言うのは簡単だけどね)。
キャンディ・ダルファー 公式ウェブサイト http://www.candydulfer.nl/
74321 111812 BMG 1993
pizzicato five 「女性上位時代」
田島貴男の後を継いで、三代目のヴォーカルとして野宮真貴が加入した。ハルメンズ、ポータブルロックと彼女を古くから知っている私は、驚きと困惑でいっぱいだった。それは、彼女が加入したピチカートが想像できないからであった。
一体どういうサウンドになるのだろうか。何より、私の好みの音になってくれるのだろうか。期待よりむしろ不安のほうが大きかったのは否めない。しかし、それは徒労に終わった。
野宮真貴というヴォーカルを、崖から落ちるくらいの勢いで前面に出し、小西・高浪のサウンドががっちりと固める。ピチカートファイヴは、今まで採らなかったフロントヘビーのスタイルでガンガン攻め始めた。野宮の持ち合わせていたファッションセンスと、小西の天才的サウンドプロデュースは、やがて「渋谷系」というムーブメントに発展する。
しかし、その頃から私は少し距離を置くようになった。もちろん、曲は聴き続けていたが、私はピチカートが渋谷系だなどと思わないし、そんなジャンル分けは音楽を作り出す者にとっては関係のないことだ。それは、ピチカートがビジネスという無限軌道に入ってしまったことを意味していた。
それでもやはり、新しい曲を聴くごとに、ピチカートのサウンドはがっちり私を捉えて離さない。これほどはまったアーティストは、今までなかった。それこそ、遺伝子レベルでそのサウンドがインプリンティングされているような感じさえあった。
終焉は、突然で呆気なかった。私が独り暮らしを終えて実家に帰ると同じくして、ピチカートファイヴは解散した。奇しくも、私が独り暮らしをしていた十年間とともに、野宮真貴のピチカートファイヴはあったのだ。
この頃から、私はあまり新しい音楽に手を出さなくなった。意識しているわけではないが、やはり失ったものは大きかったということだろう。次に私を狂わせてくれるほどの音に、果たして出会えるのだろうか。
COCA-7575 SEVENGODS 19910901